映画『ブルックリン』のエイリッシュはずるい女なんかじゃない
ブルックリン
出演: シアーシャ・ローナン, ドーナル・グリーソン, エモリー・コーエン, ジム・ブロードベント, ジュリー・ウォルターズ
監督: ジョン・クローリー
2016年 アメリカ
とにかく色彩の綺麗な映画。出て来る人たちの衣装の色彩、景色、小道具、すべてが美しい。
そしてなにより シアーシャ・ローナン演じる主人公、エイリッシュの瞳の色が美しい。
ところでこのエイリッシュについて、ずるい女だとか女は怖いとか書いているブログを散見したので個人的な意見として反論すべく今回は筆を取りました。
あらすじ
アイルランドの小さな町で母と姉と住む主人公は仕事もなく、恋人もおらず、閉塞感のある日常を送っている。でもこの日常とももうすぐお別れなのだ、そう、彼女は教会の神父さんの手引で、アメリカに渡り、ニューヨークで仕事を得てそこに住むことになっているのだ。年老いた母を残して最愛の姉と離れる寂しさと、見たことのない街への憧れと不安の中で船に乗るエイリッシュ。
ネタバレする感想
※ゴリゴリのネタバレなので、気にしない方か鑑賞後の方のみご覧ください
エイリッシュ、めっちゃいい子なんだが
とにかく主人公がちゃんとしていていい子なので安心して美しい景色や衣装、小道具に心を踊らせていられます!不器用なところもあるけど基本的に真面目でしっかり者。
そこがなにより大切なポイント。
ナンパしてくるチャラそうなイタリア男にも冷静に対応。この男性が意外と良い奴なところとかも本当にほっこりします。
基本的にはこのしっかり者なエイリッシュちゃんがホームシックを克服しながら、イタリア移民のトニーと恋愛するシンプルなストーリー。
大好きなローズ
簿記の試験にも合格して色々順風満帆な最中に、突然の知らせが届きます。故郷の姉の死。
主人公は初めてのトニーとのデートでこんなことを言っていました
「姉は私よりキレイ。姉がいたら、私なんかに声はかけなかったんじゃないかしら」
なるほど。
この言葉を聞いて、私は少し、最愛の姉ローズが彼女にとっての重荷でもあったことを知りました。誰からも愛されて優秀な姉と居たことは、彼女が一人きりの自分だけの力で人間関係を築いたり自信をつけたりすることをこれまで少しだけ妨げてきた面があるのかも知れません。
しかし渡米によって強制的に姉離れしたものの、二度と会えなくなるなんて、残酷です。
姉の不在によって、故郷に残した母と自分との関係を整理しなければならなくなります。
アメリカでの生活を約束すること
トニーは姉の葬儀のためにアイルランドに戻るエイリッシュに結婚してほしいと迫ります。まあなんかこの辺りはオイオイ、トニーくんどうしちゃったの?と思って見ていたのですが
船に乗って渡ってしまえば満足に連絡も取れない状況で彼女を旅立たせる前に約束したかったということなのでしょうかね
まあそれで結婚してからアイルランドに戻るわけですが
この結婚というか今後アメリカで生きていくことを決める=母とは離れて生きていく
という宣言なわけですよね。
誰がカマトト女だよ!そうさせたのは誰なんだ!
そこで本題ですよ
アイルランドに戻ってから結婚したことを誰にも告げずに地元の男と付き合っていることを女は怖いな~的に受け止めている人が居るのを見てこの記事を書こうとしたんですよ
いや、ちょっと待ってくれよ。だって、どこがカマトト女なんだよ?
お姉ちゃんが死んじゃったばっかりのお母さんに結婚してきたこと、アメリカで一生暮らす決意を決めてしまったこと、言えますか?
言えないよ。しかも、そんな話をするタイミングも与えてくれずに、近所の男をせっせと勧められて、どうしたらいいのか分かんないよ。
地元の友達も近所の人も、みんなみんな、誰も話なんか聞いてくれずに
あの男と結婚してどこに勤めて母の近くに住めって勝手に言ってきただけ
従順な女性でいること
このアイルランドの故郷での風景は、どこかで見たことがあるなあと私は思いました。
これは、自分の場合は、親戚の集まりだな。
進学や就職は近所にしろとか、婚期や様々な個人的な問題に関してああしろこうしろと自分の持ち物みたいに、それが「指図していること」であると自覚もせずに発言するおじさんやおばさん達。
必ずしも女性だけが年長者から指図されると言いたいわけではないが、得てしてそういう場合は多いのではないだろうか。
エイリッシュは賢いからいつもそこで啖呵を切らずに黙って従っているけど、それがずるい女だとでも言いたいのでしょうか?
アメリカを選んだ理由
だから、別にどっちの男が好きとか嫌いとかじゃないんですよ。
ゴルフコンペの賞の名前になった姉は誇らしいけど、自分の人生とはそんなに関係ないと思って生きていきたいじゃないですか。実際、これからの人生は全然違ったものになるんだから。
この気分を受け入れてくれる場所で生きていけることが彼女の幸せだし、
それがたまたま海を渡った先にあったということだけではないですか。
もちろん、最初からそんなこと分かっていたから結婚してから故郷に帰ったのです。
(ちょっとだけ、故郷も悪くないのかなって年老いた母の顔を見ていたら思ったけど)
だからね、男を値踏みしたりしてないと思いますよ。
別にエイリッシュが可愛くて真面目で好きなタイプだから弁護するのではなく、
彼女は賢いから、本当にアメリカと故郷を天秤にかけるような自分がいたなら、うまくトニーをなだめすかして書類の結婚まではせずに故郷に帰ったでしょう。
そうではなく、生まれ故郷ではないアメリカで、本当にこれが自分の人生だと言いたくなるような自分に出会ったからなのだと思います。
それは、今まで生きてきてよくよく知っている故郷には居ない自分だったということを分かっていたから、そうしたのです。
ちょっと熱くなっちゃいましたけど、
エイリッシュちゃんがずるいカマトト女だとしか思えないで見るのは、つまらないですよ。あんなに綺麗なんだからな